Weekly "Keyboard World"
週刊「鍵盤世界」
18. Vulcan Nerve Pinch
ソフトウェアにバグが存在しないことを証明する手段はありません。 バグがある以上、異常な状態に陥った計算機を救い出す手段が必要です。 そのような場合に利用されるキーコンビーネーションについて見てみましょう ― 2001.09.15 掲載
前回は「『Ctrl + Alt + Del』ような特別なキーコンビネーションの存在は別に PC に限った話ではない」というところで終わりとしました。 今回は、他の計算機上に存在するこのような「特別なキーコンビネーション」について書いてみましょう。
「Ctrl + Alt + Del」のような特別なキーコンビネーションが押された場合、 計算機が取る行動には二種類のものがあります。 ソフトウェアリセットとなるか、ROM モニタのような特別なモードに移行するかです。
例えば Macintosh の場合、System 7 以上なら「Cmd + Option + Esc」 を利用してアプリケーションの強制終了が行えますし、 「Cmd + Ctrl + PowerOnKey」でソフトウェアリセットがかかります。 私は最近の MacOS のことはよく知らないのですが、昔から Mac を利用している人であればまず例外なくこの両者のキーコンビネーションのお世話になっているはずです (もっとも、Macintosh II 系の Mac など、一部の Mac にはちゃんとリセットボタンも備え付けられていたのですが)。
Mac の機種によって異なった覚えがあるのですが、それ以外にも 「プログラマーズ・スイッチ」に相当するキーコンビネーションがありました。 「プログラマーズ・スイッチ」というのは一部の Mac に備え付けられていた特別なボタンです。このボタンを押すと特別なダイアログが表示され、本当に Mac に詳しい人であれば、このダイアログ内でソフトウェアデバッグが出来るようになっていました。 勿論、これが「プログラマーズ・スイッチ」の名前の由来です。
このようなキーコンビネーションは UNIX 系の OS にもあります。 「The New Hacker's Dictionary」からの受け売りですが、 例えば Sun の計算機では「L1 + A」がそれに相当しますし、 また、IRIX では「左 Ctrl + 左 Shift + F12 + キーパッド上の /」で X サーバを落とすことが出来たそうです。 ついでに言えば、俗に「PC UNIX」と呼ばれる OS で利用されている XFree86 ですと、「Ctrl + Alt + Backspace」で同じように X サーバを殺すことが出来ます。
ところで、このような特別なキーコンビネーションは前回紹介した
「Three Finger Salute」という語以外に「Vulcan Nerve Pinch」
や「Vulcan death grip」と呼ばれることがあります。
実際のところ、PC の世界では「Three Finger Salute」よりも「Vulcan Nerve Pinch」のほうが有名なようで、Linux
のソースコードツリーの中に含まれる Documentation/sysctl/kernel.txt
というファイルにも、以下のような記述が見受けられます。
ctrl-alt-del:
When the value in this file is 0, ctrl-alt-del is trapped and sent to the init(1) program to handle a graceful restart. When, however, the value is > 0, Linux's reaction to a Vulcan Nerve Pinch (tm) will be an immediate reboot, without even syncing its dirty buffers.
「Vulcan Nerve Pinch」の「Vulcan」とは、有名な TV 番組『スタートレック』に登場する異星人種族「ヴァルカン人」のことです。 スポック(Spock)というキャラクターであれば、普通の人でもご存知かもしれません。
ヴァルカン人は尖った耳が特徴の極めて高い知性を持つ種族であり、 「Nerve Pinch」という独特の得意技を持っています。 これは相手が人間型生物であれば有効な技で、 首筋に指を当てて強い圧力を与えることにより相手を気絶させるというもの。 日本語に訳せば「神経掴み」といったところでしょうか。
この技の「相手を落とす」というイメージが計算機を「殺す」イメージに重なったのが、この手のキーコンビネーションを 「Vulcan Nerve Pinch」と呼ぶことになった起源だと言われています。一説には Amiga という計算機のユーザから広まったそうですが、その真偽の程は浅学な私には調べることが出来ませんでした。
ところで、「The New Hacker's Dictionary」 によると「Ctrl + Alt + Del」というキーコンビネーションはしばしば 「Microsoft 操作(Microsoft Maneuver)」と呼ばれることがあるそうです。 「Microsoft 製の信頼出来ないソフトウェアを利用していると、悲惨な程頻繁に発生するから」だそうですが…。 結局、昔から皆 Microsoft の製品品質には泣かされていたということなのですかね。