Weekly "Keyboard World"
週刊「鍵盤世界」
6. Microsoft's crime is IBM's sin.
カット、コピー、ペーストの 3 つは、計算機で文書を作る際になくてはならない機能です。 少しでも慣れた人であれば、これらの機能のショートカットには常にお世話になっていることでしょう。 しかし仮に、これらショートカットが両手を使わなければならないものだとしたら、皆様はどう考えますか? ― 1997.9.28 掲載
これまでキーボードについて個人的に思うことをつらつらと書いてきましたが、 キーボードにはコマンドやデータを入力するという役割分担以外にも、「GUI 環境においてマウスをサポートする」、 あるいは「マウスで行う作業を代行する」というような、大切な役目があります。 その中でも、よく使われるメニュー項目を簡単なキーコンビネーションで代行する 「ショートカット」は、作業効率を上げるためにはなくてはならないものです。
というわけで、今回はショートカットについてやっぱり個人的に思うことを書いてみましょう。 尤も、多少なりとも私怨が交じっているかもしれません。
なお、Windows では Macintosh で言うところの「ショートカット」を 「キーボードアクセラレータ」と称しますが、ここでは「ショートカット」 で統一することにします。
さて、話は少しだけだけ過去に遡ります。
Windows の世界には、 『プログラミング Windows』 (Charles Petzold 著、長尾高弘訳。日本語版はアスキー出版局が発行)という、Windows プログラミングにおける「バイブル」的な書物があります。 私自身は普段は UNIX なプログラマなのですが、先日仕事で Windows のプログラミングをしなければならない羽目に陥りまして、この書籍(とは言っても、種々の事情により「Version 3.1」 …つまり、Windows 3.1 の頃の版)を読むことになりました。
とりあえず、頭のほうからつらつら見つつ、掲載されているコードを入力してはコンパイル… という感じで読み進めていたのですが、 「9.3.2 アクセラレータ割り当ての原則」という章に来て、「がちょーん」 (古いぞ)と思わせるような、衝撃的な記述を見つけてしまいました。
キーボードアクセラレータがとくに多用されるのは、「編集」メニューの項目である。 これらの項目に対する新しい推奨アクセラレータは、Windows 3.1 で次頁の表のように変更された。 メニューには新しいアクセラレータだけを表示すべきだが、機能的には新旧の両方に対応したほうがよい。
まぁ、これだけなら「ふーん、そーなの」で終るのですが… そこに掲載されていた表を見て、私は驚いてしまいました。
| Undo | Alt + Backspace |
|---|---|
| Cut | Shift + Delete |
| Copy | Ctrl + Ins |
| Paste | Shift + Ins |
私は Windows は 3.1、それも 95 が登場する 1 年くらい前からちょこちょこ使い出した程度ですので、まさか Windows 3.0 の頃はこんなショートカットが主流だったとは夢にも思っていませんでした。
ここで「何がどう問題なんだ?」と思われた貴女、 普段使っているキーボードのレイアウトを思い浮かべてみて下さいましまし… あ、もし貴女のお手持ちのキーボードが Apple Keyboard II JIS や Apple Keyboard II、Apple Keyboard のような 「IBM の『大きいことはいいことだ』的な思想に毒されていない健全なキーボード」 である場合は、下のレイアウトを見て下さい。
| ~ ` |
! 1 |
@ 2 |
# 3 |
$ 4 |
% 5 |
^ 6 |
& 7 |
* 8 |
( 9 |
) 0 |
_ - |
+ = |
Back space |
Ins | Home | Page Up |
|
| Tab | Q | W | E | R | T | Y | U | I | O | P | { ] |
} ] |
Ret urn |
Del | End | Page Down |
|
| Caps Lock |
A | S | D | F | G | H | J | K | L | : ; |
" ' |
| \ |
|||||
| Shift | Z | X | C | V | B | N | M | < , |
> . |
? / |
Shift | ↑ | |||||
| Ctrl | Alt | (spacebar) | Alt | Ctrl | ← | ↓ | → | ||||||||||
上のレイアウトは、AT 互換機で使われている(所謂)「101 キーボード」の レイアウトです。Ins キーや Del キー、Ctrl キーの位置に注目して下さい。 なお、「Ins」は Insert、 「Del」は Delete キーのことです。
御覧の通り、Insert キーや Delete キーっていうのは、 ホームポジションからは極めて離れた位置にあるのです。 これではホームポジションから手を完全に動かさなければショートカットを使うことは出来ません。
これを見た後で、Macintosh でカット、コピー、ペーストを行う手順を考えてみると、 Command + X、Command + C、Command + V という配置は実に絶妙かつ覚えやすいものとなっていると再認識させられます。 まぁ、ホームポジションから手が(ある程度は)動いてしまう、 というのは同じなのですが、使いやすさは段違いですね。
何故ゆえ Microsoft がこんな使いにくいショートカットを考え出したのかはわからないのですが… (やはりオリジナリティを出さないとまずかったのでしょうか?)、何にせよ、このショートカットは Windows 3.1 の時代になってあっさりと廃れてしまいました。 そもそも、こんな変なショートカットを使っているのは「編集」メニューだけで、 他の場所ではもっとちゃんとしたショートカットがついていたのです。 例えば、「ファイル」メニューの「印刷」などは、大抵 Ctrl + P となっていました。
というわけで、Windows 3.1 以降の「編集」メニューのショートカットは、非常に Macintosh「ライク」なものになっています。
| Undo | Ctrl + Z |
|---|---|
| Cut | Ctrl + X |
| Copy | Ctrl + C |
| Paste | Ctrl + V |
Command キーと Ctrl キーの違いはあれど、Macintosh の「編集」メニューのショートカットと似ています。 また、モディファイア・キー(修飾キー。 ショートカットを使う際、一緒に押す特殊キーのこと)が Ctrl キーに統一されていますから、Windows 3.0 時代のように、 いちいち「えっと、このときは Shift を押して、このときは Ctrl を押して…」 などと迷わずにすみます。
しかし、実はこのショートカットも Windows 環境では非常に使いにくいものだったりするんですね。
一応 Microsoft を弁護しておきますと、別にこのショートカット自体が悪い物だったというわけではないんです。 以前のものと比べると格段に覚えやすいことは事実ですし、このショートカットが快適に使える環境もあります。 ただ、世間一般に普及している環境とは水と油のように馴染まないものだったというのが不幸だったのです。
つまり、一般的な環境では、Ctrl キーの位置が腐っていたというわけなんですね。
98 ユーザを除く Windows 使いの人々は、通常 101 キーボードか日本語 106 キーボードを使っています(日本では、普通は日本語 106 キーボードですが)。 ですが、この二つのキーボードはどちらも Ctrl キーが左下隅に置かれているのです。 「コピー」をショートカットで行うには、左手の小指をうーんと伸ばして Ctrl キーを押し、そのまま「C」を押すのですが…これでははっきり言って、
左手が死にそうな感じになってしまう
のです。嘘だと思ったらちょっとお手持ちのキーボード(何でもいいですよ) でやってみて下さい。Copy & Paste の繰り返しを 20 回程このショートカットでやったら、もう泣きそうになってしまいます。 勿論、このショートカットを実行するたびに、ホームポジションから手が外れてしまうことは言うまでもありません。
98 のキーボードなら、Ctrl キーが「A」の左横にありますから、 格段に楽なんですけどね。やはり「Windows するなら 98」なのでしょうか??
| ESC | ! 1 |
" 2 |
# 3 |
$ 4 |
% 5 |
& 6 |
' 7 |
( 8 |
) 9 |
0 |
= - |
` ^ |
Back space |
Ins | Del | |
| Tab | Q | W | E | R | T | Y | U | I | O | P | ~ @ |
{ [ |
Ret urn |
Roll Up |
Roll Down |
|
| Ctrl | Caps Lock |
A | S | D | F | G | H | J | K | L | + ; |
* : |
} ] |
↑ | ||
| Shift | Z | X | C | V | B | N | M | < , |
> . |
? / |
_ |
Shift | ← | → | ||
| カナ | GRPH | NFER | (spacebar) | XFER | ↓ | |||||||||||
…などと考えてたら、何と日本電気も 98 路線から「98 路線 + AT 互換機」 というふうに方針を変えてしまいましたね。日本電気の作る AT 互換機には、やはりというか、予想通りというか、当然のように日本語 106 キーボードが標準添付だそうで…何となく、 「日電よ、お前もか!!」とう気分にさせられてしまいます。
「しかし、巷の Windows 使いってのはこんなショートカットでよく頑張れるもんだなぁ。もしかして、 Windows 使いはみんな我慢強いんだろーか。それとも、オミソが腐ってしまってるんだろうか?」
と気になってしまったので、回りの Windows 使いに聞いてはみたのですが、 やはり「使いにくい」と思っている人もいるみたいでした。 「98 では使うけど、AT 互換機では使わない」っていう人もいたほどです。 もっとも、「慣れちゃったから別にどうでもいい」なんていう、 (私の個人的主観では)それはそれは可哀想な人もいましたが…。
ちなみに、こんな腐った位置に Ctrl キーをもってきたのは、他でもない IBM です。IBM が最初に出した IBM PC、後続の IBM PC/XT と共に使われていた「PC/XTキーボード」、更にその後続の IBM PC/AT(初期型)と共に使われていた 「IBM AT キーボード」では、ちゃんと Ctrl キーは「A」の横にあったのです。
ところが、どんな気まぐれが IBM 社内を駆け巡ったのか、IBM PC/AT のクロックアップバージョンと共に出荷された「IBM アドバンスドキーボード」 (いわゆる「101 キーボード」)では、突然 Ctrl キーは左隅と右隅に押しやられ、 代わりに Caps Lock キーが「A」の横を占めることになりました。 しかも悪いことに、この腐った配列はその後の AT 互換機市場の主流になってしまいました。
それから数年…Microsoft の決めたショートカットは、実は IBM のせいでこんなにトンデモナイものにならざるを得なかったのです。 もっとも、こんな腐った現状には目を背けて、「スタートメニュー」がピョコっと飛び出す 「Windows キー」や、右クリックと殆んど同じ動作をする「Application キー」 などを定義してしまう Microsoft も、IBM と同じくらいに罪な存在だと言えるでしょう。 せめて、代わりに Macintosh の「Command キー」に相当するキーを定義してくれれば、 どんなに Windows 95 も使いやすくなったことでしょうか。
まぁ、いろいろ言いたいことを書き連ねてきましたが、 結局のところ、ショートカットなぞ単なる慣れの問題なのかもしれません。 ただ、Windows で仕事をするようになってからは「左手小指の付け根がいつも痛い」 という事実を誰がどう説明してくれるのか、今はそれに興味があったりするだけなのです。
さて、今回は、
Ctrl キーが A の横にないなんて、ちょっとアタマ悪いんちゃう?
ということをメインに書いてみましたが、
何言うとん。 Caps Lock キーこそ A の横にあるべき存在やねんで!!
と主張してやまない人がいることも又事実です。 実は後者の意見が大きくなったといういう事実こそ、 計算機が「計算以外の用途にも使える」ということを証明する事実だと私は思っているのですが。
というわけで、次回の「鍵盤世界」では、この Ctrl と Caps Lock の終りない場所争いについて書いてみようかと思います。それでは、また。