Weekly "Keyboard World"
週刊「鍵盤世界」
4. Lop Nur
コンピュータ・ベンダは、自社で製造している計算機のユーザ層がどのように計算機を利用するかを考え、 最終的にキーボードのキー配列を決定します(と、思います)。 その結果として、一般的に利用されることが少ないキーは、計算機ごとに配置が異なると言っても過言ではないような状況下に置かれます ― 1997.9.15 掲載
「ロプ・ノール湖」というのをご存知でしょうか? 中国北西部の沙漠地帯に存在する湖です。
この湖は、時として地図上の位置には存在せず、別な位置に移動してしまうことがよくあります。 そのために旅行者や地図製作者、探検家を古来から悩ませてきた湖でしたが、その移動する理由・動機はずっと謎のままでした。 かつて探検家のヘディン博士が、ロプ・ノール湖が移動する原因を確かめるために、 タクラマカン沙漠一帯をウロウロ(←…もうちょい、気のきいた表現はなかったんかい)し、遂にその原因を突き止めた、という話は有名ですね。
さて、我々が使っているキーボード。 通常、キーボードの上のキーの配置というのは、「US 配列」や「ISO 準拠」の違いこそあれ、 この 2 つのどちらかの配列に従っています。しかし、これはアルファベットや頻繁に使う記号だけの話。
キーボードの上に配置される英文字・数字・記号類は通常、 ASCII(American Standard Code for Information Interchange)で定義されている 127 文字のうち、制御記号と Delete を除いた 95 文字。しかし、95 文字の中でも
こげな文字、滅多なこっちゃ使わへんけぇ、別にどこにおいたかてかめへんわ。 どーせ一生使わへんやろ。
なんて思われている文字については、 キーボードによっていろいろなところへ配置されてしまうのが世の常です。
というわけで、今回はそんな可哀想な「彷徨えるキー」についてお話してみたいと思います。 なお、今回は私の趣味で、主に「US 配列」上での配置について見ていくこととします。
よく、ASCII のことを「ASCII コード」と書いている人を見かけますが、 ASCII は先に書いたように「American Standard Code for Information Interchange」 の略ですから、「コード」は不要です。 私自身は「ASCII コード」や「EUC コード」という用法を見聞きすると、つい「『中央センター』っていう感じだな」とか思ってしまいます。
まず、「~」(チルダ)と「`」(バッククォート)について取り上げましょう。
この二つの文字は通常 ~ / ` という形で一つのキーに同居しているのですが、
「キーボード毎に配置が違う」と言っても過言ではないほど、いつもあちこちに移動させられるキーです。
確かに、「~」という文字を日常の文書作成業務で使うことはほとんどありませんし、
「`」も「俺はスマートクォートにこだわってんだ」という人以外には、あまり縁がありません。
しかし、UNIX 使いは、「~」も「`」も共によく使いますから、このキーがコロコロ移動されると困ってしまうです。
ちなみに、「スマートクォート(smart quote)」っていうのは「`doraemon'」というように、
「`」と「'」を組み合わせる形式のクォートのことです。
通常の人は大抵、「'doraemon'」…つまり、「'」だけのクォートを使うようですが、
これは「ダムクォート(dumb quote)」と呼ばれます。
UNIX 使いがどんなふうにこの2つの文字を使うか、と言いますと、
- 「
`」 - シェルスクリプト(まぁ、MS-DOS で言うところの「バッチファイル」と思って下さい)で、
コマンドの出力をパラメータ(言うなれば「変数」です)に格納したい時に使います。
「
`」でコマンドを囲むと、その出力を直にパラメータに代入できたりするんですね。 - 「
~」 - ユーザのホームディレクトリを指定するときに、「
~+ ユーザ名」 という形式を使います。皆さんも、個人の Web ページにアクセスする時に 「http://www.honyarara.com/~daresore/」なんていう記述をしますよね。 あの「~」と意味は同じです。
といった感じです。特に「~」のほうは、「いんたーねっと」が普及した現在では
それなりに使われるキーに成りつつあるのでは…とか思います。
もっとも、「いんたーねっと」で「ねっとさーひん」をするときしか使わない、
というキーになる可能性も大、ですが。
本文中では「~」を「チルダ(TILDE)」と表記していますが、JIS X 0201
ではこの文字は「オーバライン(OVER LINE)」となります。ISO/IEC 646
では OVER LINE と TILDE は同一の図形文字の表現系の相違とみなし、混乱の起こらない範囲で代替して使用することを許容していた
そうです。
さて、話を元に戻しませう。このキーの位置には、 おおよそ 3 つのパターンがあります。
| ~ ` |
! 1 |
@ 2 |
# 3 |
$ 4 |
% 5 |
^ 6 |
& 7 |
* 8 |
( 9 |
) 0 |
_ - |
+ = |
- IBM PC/XT Keyboard
- IBM Advanced Keyboard(俗に言う「101 キーボード」)
- Apple Keyboard II
- Apple Newton Keyboard
という配置や、
| ESC | ! 1 |
@ 2 |
# 3 |
$ 4 |
% 5 |
^ 6 |
& 7 |
* 8 |
( 9 |
) 0 |
_ - |
+ = |
~ ` |
- DEC VT100 Keyboard
- Sun Type2 Keyboard
或いは、
| A | S | D | F | G | H | J | K | L | : ; |
" ' |
~ ` |
- Sun Type4 Keyboard
- AX Keyboard
- 東芝 J3100 Keyboard
といった配置です。ただ、中には
| Q | W | E | R | T | Y | U | I | O | P | { ] |
} ] |
| \ |
~ ` |
- DEC DECstation Keyboard
やら、
| ESC | ! 1 |
@ 2 |
# 3 |
$ 4 |
% 5 |
^ 6 |
& 7 |
* 8 |
( 9 |
) 0 |
_ - |
+ = |
| \ |
~ ` |
- Sun Type3 Keyboard
- Sun Type5 Keyboard
- PFU Happy Hacking Keyboard
などのように、どう考えても「人間の小指の可動範囲の限界を超越してるだろ、これ」というような位置に配置されてしまうこともあります。
…とは言っても、考えてみるとこの「人間の小指の可動範囲の限界を超越した」 位置には通常、Backspace キーや Delete キーが置かれているんですよね。 そう考えると、別に小指の可動範囲を超えているわけではないのかもしれません。
Apple II のキーボードに至っては、そもそも「~」も「`」も無かったようです
(元々、このキーボードはかなり独自色が強いキーボードではあるのですが)。
また、PC-8801(イワユル「はちはち」)のキーボードにも見当たりませんから、
もしかすると、アノ時代のパソコンでは、「~」も「`」も、
無くても困らない文字だったのかもしれません。
また、Apple IIe では、なんと
| Caps Lock |
~ ` |
Apple |
のように、~ / ` が最下段に追いやられています。 Apple の他のキーボードを見ても、(IBM に迎合したかのような Apple Keyboard II は除くとしても) Apple Keyboard、及び「Apple Keyboard のタッチを再現することを目指した」 Pioneer Macintosh Compatible Keyboard でも、 同じような位置に配置されています。
| Caps Lock |
Option | Apple | ~ ` |
また、~ / ` に関して言えば、NeXT のキーボードは最悪な製品です。 ~ / ` はテンキーにしか置かれていません。
このように多種多様な機械のキーボードを見るとわかるのですが、~ / ` キーには定位置というものがありません。 作る側の都合や趣味によっていちいち移動させられてしまう、非常に不憫なキーなのです。 人気が無いキーなのはわかるのですが「せめて安住の地くらい与えてあげてもいいんじゃないのかなぁ」 なんて思うのは、私だけでしょうか? 少しくらい位置がホームポジションから遠くても、許してあげるからさ。
…さて、今回は他の「不憫なキー」も取り上げる予定だったのですが、 あまりにも ~ / ` が不憫すぎて、 他のキーを取り上げるスペースがなくなってしまいました。 というわけで、来週もこのような「さまよえるキー」である、
- \ と |
- Esc
についてお話しましょう。それでは、また来週。