Weekly "Keyboard World"
週刊「鍵盤世界」
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大抵のキーボードの最上段には、「ファンクションキー」と呼ばれるキーが備え付けられています。通常は 10 個ですが、多いモノになりますと、12 個やそれ以上ついている場合があります。 今回は、このファンクションキーについて考えてみることにしましょう ― 1997.10.19 掲載
英語で「ファンクション(function)」とは、皆さんご存知の通り「函数」を意味しますが、 ファンクションキーの「ファンクション」は、「機能」程度に考えておくと分かりやすいでしょう。 ファンクションキーを叩くことによって、そのキーに割り付けらていた機能が呼び出されます。 割り付けられている機能は特別なもの(システムの終了、選択範囲のコピーなど)や、 通常の手順では数段階の手順を経ないと実現できないもの、などが一般的です。
ファンクションキーが主に使われるのはテキストベースのフルスクリーンアプリケーションでです。メインフレームの端末画面や、MS-DOS のアプリケーションなどですね。この手のアプリケーションでは、画面の最下段に「各ファンクションキーにはどのような機能が割り付けられているか」を表示するインディケータを置くのが一般的になっています。このような環境で仕事をする場合、ユーザはシステムの操作はほぼ全てファンクションキーで行うことになります。 例えば、システムの終了は F10 キー、次の画面に行くときは F5 キー、特別なメニューを呼び出すには F1 キー、などのように使います。
さて、ファンクションキーを押すと、どうしてそのように便利なことが出来るのでしょうか。 その前に、一般的なキーボードの動作原理について考えてみることにしましょう。
キーボードのキーを押したとき、又はキーが離されたとき、キーボードは電気的な信号を発生させ、 その信号はキーボードのケーブルを通して計算機本体へ送られます。 計算機には「キーボードコントローラ」という仕組みが備わっていて、 キーボードからやってくる電気信号を受け取ると、CPU に対して「割り込み」を発生させます。 割り込みを受けた CPU は、キーボードコントローラから「どのキーが押された(離された)」という情報を受け取り、その情報に応じて処理を行います。 このようにして、計算機はキーボードの状態の変化を受け取り、それに見合った処理を行うわけなのです。
さて、ファンクションキーが押された場合はどうなるのでしょうか。 いかにファンクションキーと言えども、キーボードやキーボードコントローラにしてみれば単なる一つの「キー」です。 CPU はキーボードコントローラからファンクションキーが押されたことを知らされると、単純に「ファンクションキーというキーが押された」としか認識しません。それ以上の処理…つまり「F1 が押されたからアプリケーションを終了」「F5 が押されたからメニューを表示」などというのは、全てアプリケーションが面倒をみる仕事です。 勿論、OS 自体が「F10 を押されたら画面を印刷する」などという機能をサポートしている場合は、OS が面倒をみることになります。
というわけで、何のことはありません。ただ単にアプリケーションや OS が「この信号を受け取ったら、この処理を行う」ということを判断しているだけです。 ファンクションキー自体に特別な力があるわけではありません(当たり前ですね)。
さて、このファンクションキーですが、GUI が全盛の今現在、その必要性はかなり薄れているはずなのです。 マウスでメニューをさっと選べば、そんな機能は実現出来ますからね。 一画面を丸ごと占拠出来、かつマウスが使えなかった大昔のアプリケーション(博物館にでも放り込んであげたくなるシロモノですね)や、諸般の事情によってテキストベースでシステムを作り込まないといけないような場合以外では、必要ないはずなのです。 それなのに、計算機メーカは今だに一生懸命にファンクションキーを作り続けていますし、莫迦なシステム屋やアプリケーションメーカはファンクションキーが使えることを前提にして、ショートカットをファンクションキーに割り当てたりしてます。
凡そ、ファンクションキーなどという、キーボードによって左右されるような不安定な要素に機能を割り振る… といったことは、まともなアプリケーション開発者であれば考えないはずです。 キーボードが別のものになってしまったらその機能は意味がなくなってしまいますし、別のシステムに移植するときなどには代替手段を考えなければなりません。最近では作る方の負担こそそんなに重くはないのですが、使うユーザには重い負担となります。
ファンクションキーを使うことによる欠点としては、他にも以下のようなものが挙げられます。
- ファンクションキーの役割を覚えないといけない
ファンクションキーというのは一見便利に見えますけど、 その便利さを享受するには「10 個(12 個)あるファンクションキーのうち、 どのキーを押したらそのような便利な機能が使えるのか」ということを覚えなければなけません。 間抜けななアプリケーションベンダが
「お、ええもんがあるやんけ。よっしゃ、うちのアプリのこの機能、このキーに割り振ったろ。 キー一発でこの機能がズババババーンとか実現できるんやったら、ユーザ喜ぶやろな」
などとを考え出すと大変です。 様々なアプリケーションベンダが「それじゃあ、このキーはこうして、このキーはこうしましょう」 といった決まりを作っておいてくれればいいのですが、 「なんていうかー、あるアプリはこのキノウでー、こっちのアプリはこんなキノウってカンジー」 という低能な事態になったら、困るのは結局ユーザなんですよね。 何せ、アプリケーションごとにキーの割当てを覚えないといけないのですから。
Windows な世界では「F1 が『ヘルプ』」「F3 は『次を検索』」 程度は一般的な習慣として決まっているようですが、それ以外のキーについてはほぼ無法地帯です。 結局、ユーザはアプリケーションごとにファンクションキーの割当を覚えないといけません。
このようななことを言うと「そなこと言うたかて、あんたが好きなショートカットかてオンナジよーなもんやんかよー」 と言われるかもしれません。 しかし、ショートカットは「機能と押すキーを相関付ける」ことによって、ある程度覚えやすくすることが可能です。 これに対してファンクションキーは単に 1 から 10(12)までの数字でしかありませんから、より覚え難いのです。
フルスクリーン…つまり、画面全体をそのアプリケーションが占有出来る、 という環境なら、「画面の最下段にキーのガイドを出しておく」という手段が利用出来ます。事実、多くの MS-DOS アプリケーションではこの手段が採用されてきました。 しかし、今や一つの画面で一つのアプリケーションという時代ではありません。 まがりなりにもパソコンでマルチタスクをやろうという時代です。 そんな時代には、このような対応はそぐわないですね。 勿論、「MDI のウィンドウの最下段にファンクションキーのガイドを表示すれば文句はないだろう!」などという御仁のことを、止める気は毛頭ないのですが。
- タッチタイプで処理が進められない
いくら何でも、高々 10 個のファンクションキーだけで操作できるアプリケーションというのは、制御システムなどは例外としてもそうそうないはずです。通常は、文字キーやらカーソルキーなどを使いながら、或いは文字を入力したり、或いはセルの位置を変えたり…などをしつつ、作業を進めていくことでしょう。
ファンクションキーはキーボードのホームポジションからかなり遠く外れた位置にあります。最上段の数字キーさえタッチタイプするのは多少難しいというのに、その更に上にあるファンクションキーをタッチタイプでタイプ出来るでしょうか? 結局、その都度キーボードを見てタイプする羽目に陥ります。
モディファイア・キー(修飾キー)を用いたショートカットでしたら、大抵はホームポジションからそんなに手を動かさなくても大丈夫ですし、キーボードを見ずにショートカットを使うことも出来ます。ファンクションキーに割り当てられたショートカットというのは、なかなかそうはいかないですね。
- キーボードが大きくなる
第 1 回でも書きましたように、日本のオフィスや家庭というのは、基本的に狭いんです。 机の上に 17 インチディスプレイとキーボードを置いたら、書類を広げる隙間もない… などという環境で作業をされている人も多いのではないでしょうか。そんな狭い日本の計算機環境では、ファンクションキーのせいで巨大なキーボードを使わされるのは理不尽だと思うのです。個人的にはこの理由が一番大きいような気がしますね。
とは言うものの、さすがに最近では「ファンクションキーなしでは処理を進められない」 というようなアプリケーションはまずありません。 Windows でも、今ではほとんどのショートカットは「Ctrl + 1 文字」スタイルになりました。めでたしめでたし。
…しかし、今だにファンクションキーに依存した操作を提供している分野というのもあります。 それは、日本人なら誰もがお世話になっているはずの「かな漢字変換システム」の世界です。
MS-DOS 時代の名残なのでしょうか。 今だにかな漢字変換システムでは「ファンクションキーを使って変換処理を行う」というスタイルが全盛を誇っています。 MS-DOS な世界や Windows な世界では、カタカナへの変換はファンクションキーを叩いて行うことが当たり前のようですね。
例えば、「F6」で「全角ひらがな変換」、「F7」で「全角カタカナ変換」、 「F8」で「半角変換」などというのが一般的です。 実は密かに「Ctrl + 1 文字」というシーケンスも用意されていて、ATOK では「全角ひらがな変換」が「Ctrl + U」、 「半角変換」が「Ctrl + O」などとなっているようですが、 多くの Windows 使いはファンクションキーに変換を頼っていますです。 ファンクションキーにまで手を伸ばすよりも、タッチタイプで「Ctrl + 1 文字」をタイプしたほうが速いような気がするのですが。
ご大層なことに、MS IME には「キーボードガイド」という機能があり、 これをオンにしておくと画面の最下段にファンクションキーの割当を表示する「帯」のようなものが表示されます。 しかし、悪いことに最近の Windows アプリケーションでは最下段にアプリケーションの現在のステータスを出すことが主流のようで、 これと見事にバッティングしてしまっている、というのは笑い話にしかなっていません。
私のようにタスクバーさえ鬱陶しい人間にとっては、「何故こんな邪魔なものを」と思えてしまうのですが、 やはりこの「キーボードガイド」を愛用している人もいます。 尤も、「キーボードガイドを表示する」がデフォルトではないというのは、幾許かも救いなのですが。
Macintosh ではもともとファンクションキーが存在しないキーボードのほうが主流であったせいか、 ファンクションキーを使わなくとも変換出来るスタイルが多いようです。 Macintosh 版 ATOK も、マニュアルには「Option + U」や 「Option + O」のほうが先に載っていて、 その後ろに「F6」や「F8」のことが書いてあります。 しかしながら、Option キーと一緒に 1 文字をタイプするよりも、 ファンクションキー一つで変換できるほうが魅力的なのか、ATOK を使う人の中には Apple 拡張キーボードを愛用し、ファンクションキーでカタカナ変換を行う人もいます。
最近、Macintosh ユーザの間では「ファンクションキーや特殊キーなどが附属したコンパクトなキーボード」 が人気を集めているようですが、これはやはり ATOK や Microsoft Office (Office もまた、当たり前のようにファンクションキーや特殊キーを使うことを前提にしています)が Macintosh な世界でも標準の地位を占めてきたからなんだろうか…などと思ってしまう今日この頃なのでした。