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Weekly "Keyboard World"

週刊「鍵盤世界」

10. One hundred one, or the highest reach of compromise.

普段何気なく利用している 101 キーボード、このキーボードの上には「何に使うのか分からない」ようなキーが大量に用意されています。 これらは全て歴史的には何らかの意味を持っていたのですが、今となっては無用の長物と化しているものもあります − 1997.10.26 掲載

現在の AT 互換機の世界のキーボードは、ほぼ間違いなく 101 キーボードです。 日本では所謂「日本語 106 キーボード」が主流ですが、これは 101 キーボードを名前だけ日本語対応にしたものですから、基本的には 101 キーボードだと考えてよいでしょう。

この 101 キーボード、世間では「英語キーボード」だとか「IBM 拡張キーボード(IBM Enhanced keyboard)」だとかとも言われていますが、 正式には「IBM Advanced Keyboard」と言います(少なくとも、発表当初はそう呼ばれていました)。 この「Advanced」という名称、いったい何と比較して「Advanced」なのでしょう。というわけで 101 キーボードを語る前に、簡単に AT 互換機市場のキーボードの歴史を見てみることにします。

IBM が最初に PC と共に世に出したキーボードは、現在「XT キーボード」と呼ばれています。 最初の PC である「IBM PC」や、その後継機「IBM PC/XT」と共に販売されていました。しかし、この XT キーボードは

など、半端でなく使いにくかったようで、様々な方面から不平不満が続出したようです。

IBM は PC/XT の後継として発売した「IBM PC/AT」と共に「AT キーボード」 を発売しましたが、これもあまり良いものではなかったようです。 XT キーボードより若干の改善が見られたのですが、独立したカーソルキーもなく、 Caps Lock も相変わらず右下にありました。

「このままではイカン!」と判断したのかどうかは定かではありませんが、新型 PC/AT と共に、IBM は 3 代目のキーボードを発表します。 これこそ、現在まで使われている「IBM Advanced Keyboard」、つまり 101 キーボードなのでした。以来、このキーボードは PC 使いの良き友として、現在まで世界中で使われているというわけです。

さて、「Advanced」なんていうご大層な名前を貰っているこの 101 キーボードですが…とにかくキーの数が多くて辟易します。 一見便利そうなのですが、実はあんまり使わないんじゃないか… と思えるキーが、「これでもかこれでもか」とばかりに詰め込まれているんですね。

101 キーボードをつぶさに眺めていると、 「これだけキーを詰め込んでおけば、どんなユーザからも文句は出ないだろう」、或いは 「必要かどうか判断出来ないキーはは、とりあえず全部入れとこう」などという思想が見え隠れします。 そんな妥協の産物的なキーや、一見して何のことやらよく分からないキーについて、 2 回にわけでその由来や現状を見てみることに致しましょう。

Alt

Alt キーとは、「alternative」キーのことです。NetNewsの「alt.*」階層の alt と同じですね。タマに「アルト」と読む人がいますけど、「オルト」が正しい発音です。

Alt という名前は「このキーと一緒に通常のキーを押すと、 通常の機能とは別の(= alternative)機能を使用することが出来る」ところから来ています。 ただ、現在の MS-DOS / Windows では、「GUI の操作の代行」という役割がメインになってしまったようです。

MS-DOS や Windows の世界では、メニューやボタンの後ろに「(E)」や「(A)」 などという文字が付いているのが普通です。Alt キーを押しながらこの括弧の中に書かれた文字を押すと、 そのボタンをクリックしたり、そのメニューを選択したことと同じになります。

昔の MS-DOS な世界ではマウスが使えないことが多かったですから、 このようにして「キャラクタベースの画面で何とかメニュー方式を模倣する」などという、 涙ぐましい努力が為されていました。勿論、これが

とっても使いにくい

ことは、言うまでもないでしょう。こんなことをして、画面だけ「Macintosh という異教が蔓延る世界では、メニューなどという怪しげなものがある」 という事実だけを真似しても、ユーザにしてみれば不便なだけです。

勿論、現在の Alt キーには、 「マウスが利用出来ないユーザに対するアクセス補助」という大切な役割もあります。 しかしながら、MS-DOS 時代はそのような意図で Alt による補助が用意されたのではなく、「ただ単にキャラクタベースの画面で GUI の真似事がしたかった」と考えるのが妥当でしょう。

PC-9800 シリーズのキーボードには Alt キーがありません。そのため、98 独自の GRPH キーで Alt キーの役割を代替させています。 尤も、この 2 つのキー、似ているのはキーボード上のポジションだけですが。

そうこうしているうちに、いつの間にか 98 のキーボードの GRPH キーの下側面には、小さく「Alt」と書かれるようになりました。 こういう取ってつけたような扱いは、何とも未練がましくていいなぁなどと思います。

Print Screen

MS-DOS のようなキャラクタベースの環境では、 何故か「現在出ている画面のイメージを、そのままプリンタで印刷したい」 という欲求が利用者の頭の中に沸々と湧き出すようです。というわけで、101 キーボードにも Print Screen キーというものが用意されています。

このキーを押すと、「画面のハードコピーをプリンタから出力する」ということが出来ます。 但し、この機能は通常、「テキストモード」…つまり、 80 桁 × 25 行の文字が並んでいる画面でしか使えません。 MS-DOS の VGA グラフィックモードで書いた絵をプリンタに出力…ということは出来ないのです。

もっとも、「CGA」という、VGA よりももっともっと昔の規格を使えば、グラフィックモードの画面をプリンタに送ることが出来たそうです。 この CGA(Color Graphics Adapter)という規格、AT 互換機におけるもっとも低解像度のグラフィックモードでして、 その性能は 640×200 でモノクロ、又は 320×200 で 4 色、160×200 でようやく 16 色、というようなものでした。

Windows では、このキーを押すと画面全体のイメージがクリップボードにコピーされるようになっています。 つまり、Windows で所謂「画面ダンプ」を取るには、

  1. Print Screen キーを押して、画面のイメージをコピーする。
  2. 「ペイント」などを立ち上げて、そこにペーストする。
  3. ペーストしたら印刷する。

という手順を踏まなければならないのです。。 これでは何のために「Print Screen」という名前がついているのか、分かったものではありません。 「Copy Screen」にでも名称変更して頂きたいところですね。

98 ではこの機能を COPY キーでこれまた代用している… というのも、また有名な事実です。

Pause

言ってしまえば、ファミコンのポーズボタンと同じ機能を提供するキーです。

MS-DOS では、このボタンを押すとプログラムを一時停止させることが出来ました。 例えば、コマンドの出力が複数画面に跨ってしまうような場合 (C:\WINDOWS ディレクトリで DIR コマンドを使ったような場合ですね)、 このキーを押すとスクロールを止めるということがが出来たのです。

Windows な環境が主流になってからは、このキーを使うプログラムを見たことがないような気がします。 邪魔なだけなので、早くなくしてしまいたいところです。

SysRq

「System Request」キーの略です。殆どの人には無縁のキーであるにも関わらず、場所に制約のある一部のノート PC 以外ではちゃんと残されているのが不思議です。作る側もこのキーの意味なんて知らないのではないでしょうか。 「生きた化石」として、天然記念物扱いしたいところです(流石に、三畳紀やジュラ紀からいるわけではないですけど)。

キーボード上で SysRq キーを見つけられない人は、 Print Screen キーの下側面を調べてみて下さい。 色付きで「SysRq」と書いてありますよね。下側面に色付きで書かれた文字は、 「Alt キーを押しながらこのキーを押すと、下側面に色付きで書かれた機能が発動する」という、MS-DOS / Windows 業界のお呪いなのです。

さて、今でこそ PC の性能は安価なワークステーションに匹敵するほどになりましたが、 最初の PC が出た頃に「計算機を使う」と言えば、 「端末からメインフレームにログオンして、メインフレーム上で作業をする」ことや、 「端末からメインフレームにデータを入力して、メインフレームでデータを処理して貰う」 ということを意味していました。 PC などというものは所詮「ちょっとしたことが出来る電卓」程度のものでしかなかったわけです。

とは言えオフィスにも PC が入って来ると、この PC を何とかしてメインフレームの端末として使えないかな… などと考える人々が現れてきました。というわけでこの時代、端末エミュレータソフトを PC に載せ、「インテリジェント端末」(既に死語ですな)として PC を使うケースもかなり多かったわけです。

メインフレームにログオンしたり、メインフレームにデータを入力するために使われていた装置のことを 「端末(terminal)」と呼びます。通常の端末はキーボードとディスプレイ、 それに通信制御を行うちょっとした仕組みがセットされた程度のものであり、それ単独では何も出来ません。 端末に出来ることはメインフレーム(や他の計算機)にぶら下がって、 データを受け取ったり送り出したりすることだけです。このように、 他の計算機への「窓口」としてのみ利用可能な端末のことを「ダム端末(= 馬鹿端末)」と呼ばれます。

これに対し、先のように PC を端末に仕立て上げた場合、 端末それ自体が幾許かの情報処理能力を備えることになります。 このような端末を「インテリジェント端末(= お利口な端末)」と呼びます。

ところで、メインフレーム(当然 IBM 製)に繋げて使う端末(勿論 IBM 製)には、ユーザがキーボードをリセットしたり、端末のセッションを切替えられるようにするために SysRq キーというものがついていました。 もし PC をメインフレームの端末として使うのでしたら、この SysRq キーも使えなければ困ります。 というわけで、PC のキーボードにも SysRq キーが付けられた…というわけです。

しかし、所詮 PC は PC。PC が端末の振りをするためには、 端末エミュレータがきちんと仕事をしてくれないとダメなわけです。 端末エミュレータがこのキーをサポートしてなければ、SysRq キーは単なる飾りに過ぎません。 もちろん、MS-DOS オンリーな環境や Windows な環境では、そもそも使いようのないキーであることは言うまでもありませんね。

Linux ではこのキーを利用して、カーネルに対して特別なメッセージを送ることが出来るようになっています。この機能を「Magic SysRq」と言いますが、SysRq キーの本来の使い方とは全く異なるものであることは言うまでもありません。

なお、この機能は /proc/sys/kernel/sysrq に 1 を設定することによって有効になります。

Break

SysRq キーと同様、このキーを見つけられない人もいるかと思いますが、 通常は Pause キーと同居しています。 Pause キーの下側面に、黒で「Break」と書いてあると思いますが、 これは「Ctrl を押しながらこのキーを押すと、 下側面に色付きで書かれた機能が発動する」というお呪いです。

Break キーの本来の役割は「何を実行していようと、 コンピュータに停止又は中断を命令する」というものでした。Macintosh では処理を中断する場合は大抵 「Command + .」というシーケンスを使いますが、それとほぼ同だと考えていただけると分かりやすいでしょう。

しかし、そうであればその役割をちゃんと持たせておけばいいものを…。 最近のアプリケーションでこのキーを使っている例は殆どありません。Microsoft Office 製品群では「ファイルの読み込みを中止する」とか「ページ番号の振り直しを中止する」ためのキーは Esc になってしまっていますからね。となると、この Break キーも今や必要ないキーなんじゃないかな、とか思うのです。

例外として挙げられるのは、Microsoft などから提供されている統合開発環境(Visual Basic や Visual C++ など)でしょう。 これらの開発環境では、デバッグ時にプログラムの流れを止めるために Break キーを利用しています。 しかし、これだけのためにキーボード上の貴重なスペースを消費する必要はあるのでしょうか?

MS-DOS では、Break キーを Ctrl + C として解釈します。厳密に言えば、Break キーはソフトウェア割込み 1BH を発生させますが、割込み 1BH にある DOS ハンドラは、DOS に Break キーを Ctrl + C として解釈させるような内部的フラグを設定します (『IBM PC & PS/2 プログラマーズガイド』(Microsoft Press)より)。

今回紹介した5つのキーは、主に「何か特別なことを行う」ためのキーでした。 来週は残った「意味不明な特殊キー」のうち、「カーソルの位置を移動する」ためのキーについて紹介します。

それでは、また来週。